のう、わしのこと覚えとる・・・?
君の恋人やったって、言える資格があるかどうかわ分からんけど・・・。


もうそばにいられないなんて


わしが間違ってた、ごめんの。
あのとき、わしが引き止めてたらこんなことにはならんかったはずなのに。
「行かんで」
たった一言、言えたらよかったのに。
わしの一瞬の意地のせいで、君の一生を奪ってしまった。
もっと強く抱きしめて、遠くに行かないように抱きしめてたら。

いくら泣いても、いくら叫んでも・・・もう、戻ってこない。
わしのために明日が来ても、君のためには明日はもう来ない。
わしのあのたった一言がなかったら、そしてあの一言があったなら。
君は、まだわしの腕の中にいたんかな?

もう、君のために歌えないなんて。
君のためにこの歌を捧げることが出来ないなんて。
ただ、空を見つめて、雲を睨んで・・・君に届くように。
届かないなんて十分承知してるよ、わしだって一応大学に通ってた。

大嫌いも、大好きも、何度だって言い合えたのかな。
愛してるも、口に出すのが今ではこんなに容易いことになってしまった。
好きだよ、愛しとったけぇ。

・・・会いたい」
会いたい、抱きしめたい・・・そばにいたい。
・・・どこにおるん・・・?わし、目が悪いけぇ・・・」
涙で霞んで、姿が見えないよ。
「のう・・・そばに、行ってもいい?」
涙は枯れた、だけど・・・無常にもわしの声は枯れやしない。
日頃から訓練してるから、それが仇になってしまった。
「好きじゃ・・・離れとおないのに・・・」
空を見上げると、雲の切れ間から光が差していた。
「・・・そんなことしたら、に怒られるよの」

もうそばにいられないなんて、信じられないけど。
そばに行ったらに怒られそうじゃけぇ、わし・・・もうちょっとこっちで頑張るからの。






金星/ELLEGARDEN